受講生が教官の言うことを無視して、自分勝手な判断をし、実際の運転まで満点などということがあってはならない。それでは、何のために教官がいるのかわかなくなるではないか。こんな気持ちが私に復讐の判断を取らせたのである。だが、幸いというか偶然にも、この生意気な男に、教官の言うことにはいちいちキチンと返事をして素直に従った方が得であることをわからせるチャンスが、意外に早くやってきた。交差点で右折する時に同じく右折しかかった前の車のオバさん受講生が、クラッチとアクセルを踏み間違えたらしく、途中でストップしてしまったのである。「さあて、教習で習ったことを思い出してやってみて」私は受講生に指示した。私たちの車は横断歩道のラインを通過しつつあった。もちろん、信号はまだ青である。正解は交差点の中央にある右折の待機ラインあたりで、前方車が正常に通過するのを待つことだが、何を思ったのかこの男はいきなりアクセルを上げて前の事故車を追い抜こうとしたのである。私はすかさず急ブレーキをかけて、意地悪く説教した。私たちの車はまだ止まったままの前行車の横にストップしていた。このため後続車も止まるし、反対方向からは数台の教習車が信号を待っているから、この男は当然のように、さらし者になる。「あんた、学科教習をちゃんと聞いていないな。こういう時にどうするのか、いま思い出して言ってみな。わからないなら、はっきり言ってよ」ふたたび、この男が貝になってしまった。隣のオバさん受講生の車がやっと正常に動きだしたし、信号も変わったので、私は車を左に寄せさせた。